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東京地方裁判所 昭和57年(行ウ)92号 判決

原告 森田優 外九名

被告 東京都知事

主文

一  原告らの訴えのうち、都道占用の放置の違法確認を求める訴えを却下する。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が別紙物件目録記載一ないし五の各都道部分に対する帝都高速度交通営団の占用について金一二〇五万六四二六円の損害金の徴収を怠つていることが違法であることを確認する。

2  被告が別紙物件目録記載四及び五の都道部分について帝都高速度交通営団の各占用を放置していることが違法であることを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者の地位

原告らは東京都の住民であり、被告は東京都の財産を常に良好の状態において管理すべき義務(地方財政法八条)及び東京都道路占用料等徴収条例(昭和二七年条例第一〇〇号、以下「占用料徴収条例」という。)により道路占用について占用料を徴収すべき義務のある東京都の執行機関である。

2  営団の都道占有

(一) 帝都高速度営団(以下「営団」という。)は、都道三〇二号線(通称靖国通り)の千代田区九段南二丁目四番地先から同区神田神保町一丁目九番地先までの延長約一二七一メートルの区間(以下「本件工事区間」といい、当該部分の都道を「本件都道」という。)において、地下鉄一一号線敷設工事の施行のため、別紙物件目録記載の各都道敷地を別紙占用期間目録(一)記載の各期間占有使用し、あるいは現在も占有使用を継続中である。

(二) 別紙物件目録記載の各都道敷地のうち、別紙図面一ないし五の赤線で囲んだ部分は、夜間にバリケードによつて囲まれた部分である。

道路法三二条によれば、同条一項の一号ないし七号に掲げる「工作物、物件又は施設を設け、継続して道路を使用する場合」には占用許可が必要であり、右バリケードは同条一項七号、同法施行令七条一号の「標識」に該当するから、バリケードによつて囲まれた部分も道路法上の占用許可を要する営団の占有使用が成立しているものと解すべきである。

(三) 右(一)、(二)のとおり、営団は、前記の占有使用部分において、シールド工法により掘削するためのシールド立坑を掘り、その周囲を囲障で囲むなどして、道路通行を著しく妨げる状態で同都道を占拠している。

3  占有の放置と財産管理の違法

(一) 本件工事区間の都道の敷地は国有地であり、東京都が国から無償貸付を受けて使用している。

(二) 右の道路使用権は、法的には使用貸借に基づく使用権と構成されるが、地方公共団体の財産的管理の側面からみれば、地上権・地役権等と区別すべき実益はなく、当該地方公共団体が、右権利に基づき管理する不動産についてこれを行政目的に供するため万全の管理をすべきであるという点において、地上権を保有している場合となんら変わりがない。したがつて、右権利は地方自治法二三八条一項四号所定の「これらに準ずる権利」に該当し、同法二三七条一項の「財産」にあたるというべきである。

(三) それゆえ、本件都道は単に道路法上の管理の対象となるだけではなく、公有財産として常に良好の状態において管理され、かつ、その保有する目的に応じて最も効率的に運用されなければならない(地方財政法八条)。ところが、営団の本件都道の占有は道路占用許可を欠いたものであり、その実体は不法占有であるのに、被告が右占有を放置していることは財産管理者としての公共財産の管理を怠つていることになるから、右管理の懈怠は財務会計上の怠る事実に該当する。

4  損害金徴収の懈怠

(一) 都道の占用には道路占用許可が必要であり、それなくして都道を占有使用するのは都の財産の不法占拠であるから、営団は本件都道の不法占拠者として、都に対しこの損害金の支払義務を負担している。

(二) 右の不法占有について被告が営団から徴収すべき損害金額は占用料徴収条例によつて算出される占用料に相当する額であるが、右条例に基づきその損害金を算出すると、別紙損害金目録記載のとおり、昭和五九年一二月一八日の時点で合計一二〇五万六四二六円となる。

(三) 被告は、営団に対する右の占用料相当の損害金の徴収をしない。

5  監査請求手続の履践

原告らは、昭和五七年六月三日付けで右3、4の各違法の是正を求めて東京都監査委員に対し地方自治法二四二条に基づく住民監査請求をした(以下、「本件監査請求」という。)が、右監査委員は、同月二三日付けで原告らの監査請求を却下する旨決定し、その旨原告らに通知した。

よつて、原告らは被告に対し、請求の趣旨記載の各財産の管理を怠る事実の違法確認を求める。

二  被告の本案前の主張

1  監査請求の不適法

(一) 本件監査請求は、道路行政上の立場から行う管理に関するもの及びこれを前提とするものを対象としたものにほかならないから、住民監査請求の対象となりうる財務会計上の行為に当たらない不適法なものとして却下されている。

(二) 地方自治法二四二条の二に定められている住民訴訟を提起するには、同法二四二条所定の住民監査請求を前置すべきものとされているところ、この住民監査請求は適法なものでなければならず、監査請求に瑕疵があつてその請求が却下され、その却下が正当と認められる場合には適法な監査請求を経たことにはならない。

それゆえ、原告らの本件訴えは監査請求前置主義をとる地方自治法の規定に違反し、不適法である。

(三) 仮に監査委員が原告らの請求について実体に立ち入つて審査しているとしても、その審理は監査請求が適法であるか否かを判断するためのものであつて、監査請求の理由があるか否かを判断するためのものではないから、そのことによつて元来不適法な監査請求が適法なものとなるものではないことは明らかであり、審理の結果「監査請求の内容は財務会計上の行為に当たらない。」として本件監査請求が却下されている以上、原告らは適法な監査請求を前置していないことになる。

2  住民訴訟の対象としての適格性の欠如

(一) 都道の占有放置の違法確認の訴えについて

(1) 地方自治法二四二条の二所定の住民訴訟の対象は、地方公共団体の機関または職員による同法二四一条一項所定の一定の財務会計上の違法な行為または怠る事実に限られる。

すなわち、住民訴訟の制度は、直接には地方財政の運営における腐敗を防止し、財務会計上の公正を期すること、つまり、住民に訴権を与えることによつて財務会計の違法な管理運営を防止是正させ、併せて地方公共団体の被つた損害の回復をさせ、もつて、地方公共団体の経済的基礎をなす公金・財産等が住民全体の利益のために使用されることを担保し、地方自治行政の公正と住民全体の利益を図ることを目的としたものである。それゆえ、住民訴訟の対象は地方公共団体の機関または職員の行政上の違法行為全般にわたるものではなく、地方公共団体に財政的損失を与えまたは与える虞れがあり結局において住民の負担に転嫁されるような地方自治法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為または怠る事実に限定されているのである。

ところが、原告らの前記訴えは道路法に規定されている道路管理者としての道路行政上の管理の懈怠の事実の確認を求めるものであつて、財務会計上の違法な行為または怠る事実の違法の確認を求めているものではないから、原告らの右訴えは住民訴訟の対象たりえないものを対象とした不適法なものである。

(2) 地方自治法二四二条及び二四二条の二にいう「財産」とは同法二三七条一項に規定する「財産」、すなわち公有財産、物品及び債権並びに基金のいずれかをいうものである。

しかるに、本件都道の敷地の所有権は国に属し、東京都は右都道敷を道路法施行法五条一項により国から無償貸付を受けているものであるから都の所有に属しない。また、右条項に基づく都の道路敷の使用権についてみても、その使用権は地方自治法二三八条一項各号のいずれにも該当せず、したがつて、同法二三七条一項にいう「財産」には当たらない。

そうすると、仮に被告に本件都道に関して管理を違法に怠る事実があつたとしても、これについて同法二四二条の二第一項三号に基づく怠る事実の違法確認の訴えを提起することは許されない。

(二) 損害金徴収懈怠の違法確認の訴えについて

住民訴訟は、住民に訴権を与えることによつて、違法な財務会計に係る行政の管理・運営を防止是正し、もつて地方公共団体の利益を図ることを目的としたものであるから、その目的からして、住民訴訟の対象となる行為は、地方公共団体の財務会計上の処理を直接の目的とするものに限られるのである。原告の右訴えは被告の道路管理上の管理の懈怠を論ずることになるので、住民訴訟の対象とはなりえず不適法である。

3  請求の不特定(請求の趣旨第二項)

一般に、確認訴訟では給付訴訟とは異なり「請求の趣旨」の記載のみで訴訟物自体の法律的性質決定がなされ請求が特定されなければならないものと解されているから、地方自治法二四二条の二第一項三号の訴えにおいては、「請求の趣旨」の記載のみから、「地方公共団体の執行機関又は職員において、法令又は職務上の義務に基づき何らかの行為をなすべきであるにもかかわらず、これを行わない」ことが明らかにされなければならないものと解すべきである。

ところが、請求の趣旨第二項の文言からは、被告にどのような法令もしくは職務上の作為義務があるのか、またはいかなる法令もしくは職務上の懈怠があるのか明らかではない。したがつて、原告らの請求の趣旨第二項にかかる訴えは不適法である。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実は、占用の範囲及び期間を除き全て認める。営団が占用した本件都道の範囲及び期間は別紙図面一ないし三および五の各青線で囲んだ部分につき別紙占用期間目録(二)各記載の限度で認め、その余は否認する。

3  同2(二)の事実は認めるが、法律上の主張は争う。

別紙図面一、二の各赤線で囲まれた部分は、営団が九段上付近の地下鉄一一号線敷設工事を行ううえで当該道路を一時使用(道路法上の占用)することになるが、その際の道路交通の安全と円滑を図るため、所轄の警察署長から道路交通法七七条一項一号に基づき道路交通法上の道路の使用許可を受けるため、その範囲を図示したものである。そして、右赤線で囲まれた部分の周縁には、前記地下鉄敷設工事中における工事現場の周囲の交通保安施設として、昼間はネツトフエンスが、夜間(午後八時から午前六時まで)はネツトフエンスに代えてバリケード、カラーコーン等が置かれるが、その位置も右敷設工事の進捗に対応して逐次移動し、本件都道の一定場所に固定されることはない。

したがつて、前記の赤線で囲まれた部分は道路法三二条一項の「継続して道路を使用しようとする場合」には当たらない。また、バリケード等は道路交通の安全と円滑を図る目的の下に道路交通法七七条三項の規定により設置されるものであるから、道路法三二条一項七号に規定する「道路交通に支障を及ぼす虞れのある物件」に該当しないことは自明である。

右のとおり、前記の赤線で囲まれた部分に関する営団の使用方法は道路法三二条一項の対象となる占用に当たらないものであり、原告らのいう占有(占拠)は成立していない。

4  同2(三)のうち別紙図面(一)ないし(五)のうち赤線で囲んだ部分について営団に占有があること及び同各図面中の青線で囲んだ部分について通行が著しく妨げられているとの事実は否認し、その余は認める。

5  同3(一)の事実は認め、(二)(三)の主張は争う。

6  同4(一)(二)の各主張は争い、(三)の事実は認める。

ちなみに被告が認める営団の占有(占用)範囲・期間を基礎にして占用料相当額を算出すると、別紙占用料相当額計算書記載のとおり、昭和六〇年二月四日現在で八七五万六九五一円となる。

7  同5の事実は認める。

四  抗弁

1  本件許認可の経緯と被告の承認

被告が営団に対して「地下鉄一一号線渋谷二丁目、日本橋本町間のうち九段付近鉄道工事施行方法の一部変更」の承認をするに至るまでの経緯は次のとおりであり、これによつて被告は営団の右施行範囲の本件都道の占有、使用をも承認した。

(一) 建設大臣は、地方鉄道法四条但書に基づき、営団に対し、その申請に係る営団地下鉄一一号線に関し渋谷二丁目から日本橋本町間の道路に地方鉄道を敷設することについて、昭和四七年三月三〇日付けで左記事項等を付して許可した(以下「本件敷設許可」という。)。

営団は、昭和四八年三月二九日までに地方鉄道法第一三条第一項の規定に準じ線路実測図及び工事方法書を建設大臣に提出して工事施行の認可を受けなければならない。

(二) そこで、営団は建設大臣に対し同年四月一一日付けで右工事施行の認可申請をなしたところ、建設大臣は営団に対し昭和四八年三月二七日付けで右工事施行について左記事項等を付して認可した(以下「本件施行認可」という。)。

工事の施行にあたつては、工事の順序方法等について詳細な設計図書を作成し、これを道路管理者に提出してその承認を受けること。

(三) 本件都道の管理者の機関である被告は、営団に対し、同年四月二六日付けで提出された右工事の施行方法についての承認申請を同年七月一三日付けで承認した。

(四) その後、右承認された工事の施行方法の一部を変更する必要が生じた営団は、被告に対し昭和五五年七月一七日付けで右工事の施行方法の一部変更の申請をし、被告は昭和五六年二月二五日付けで右一部変更を承認した。

右一部変更の主な内容は、次のとおりである。

(1) 変更前においては、シールドの掘進は、三番町側から九段下側に向けて行うよう計画していたが、逆にシールドの発進基地を九段下側に設け九段下側から三番町側に向けて掘進を行うこととした。

(2) 変更前においては、シールドの掘進は原則的に圧気工法で施行することにしていたが、それを新技術の泥水加圧工法にあらためた。

(3) 前記(1)の変更に伴い、昭和五五年七月一七日付け「地下鉄一一号線渋谷二丁目・日本橋本町間のうち九段付近鉄道工事施行方法一部変更承認願」及び同添付の「道路使用方法詳細図」のとおり、工事区域の変更を行つた。

2  地方鉄道法四条但書による道路法三二条の排除

地方鉄道法四条但書に基づく敷設許可及び施行認可がなされた場合には、以下に述べるとおり、軌道法四条の場合と同様に地方鉄道の道路への敷設そのもののみならず、右許認可の範囲内でその工事のための当該道路の占用についても道路管理者から道路法三二条一項の道路占用許可を受けたものとみなされるべきものであり、地方鉄道法四条但書は道路法三二条の特別規定に当たる。

(一) すなわち、地方鉄道法四条本文は、鉄道を道路に敷設することを原則として認めず、軌道法による軌道の場合のように鉄道を道路に縦断的に敷設すること、すなわち道路中心線と鉄道の中心線とが平行または重なつて敷設することを禁止し、例外的に、やむをえない場合には主務大臣の許可を得て道路に縦断的に敷設することができる旨を定めている(同条但書)。これに対し、鉄道が道路を横断して敷設される場合、すなわち道路中心線と鉄道中心線とが平行または重なることがない場合は、道路法三二条一項の許可(道路管理者の許可)を要することを地方鉄道法一六条が注意的に規定している。この差異は、地上鉄道施設の道路への縦断的敷設が横断的敷設に比べ道路機能を阻害・減殺する程度がはるかに大きいため、縦断的敷設についてのみ、所管大臣が、その必要性と道路の構造保全、交通あるいは道路管理の立場等を勘案して許否を決することとし、許可があつたときは、その範囲内の道路については、許可に係る縦断的敷設工事施行のための当該道路の占用については、あらためて道路法三二条の許可を要しないものとしたことを意味している。

(二) 右の理は、軌道法四条が、軌道の敷設につき主務大臣の特許があれば軌道敷設に要する道路占用につき管理者の許可または承認があつたものとみなす旨を明文化しているのと同様である。詳述すれば、

第一に、地方鉄道法第四条但書の許可も道路法第三二条第一項の道路占用許可も、講学上いわゆる特許と解され、その性質は同一であり、かつ、地方鉄道法四条但書の許可にかかる申請書に明らかにすべき事項(「地方鉄道法四条但書ニ依ル線路敷設ノ許可手続」((明治四三年内務省令第二七号))一条、道路法三二条二項)は道路法三二条の占用許可のそれを包含しており、地方鉄道法四条但書の許否は、道路管理の観点から道路占用許可の際に判断すべき事項をも包含した審査を経てなされるところの右占用許可と同種の設権処分である。したがつて、これに加えてさらに道路法上の占用許可を得る必要はないというべきである。

第二に、地方鉄道法が軌道法四条のようなみなし規定を欠くのは、軌道は当然に道路に敷設されるのに対し、地方鉄道は道路に縦断敷設しないことを原則とするという差異があるため、軌道法では明文を置き、地方鉄道法では明文までは設けなかつたにすぎないのである。したがつて、軌道敷設の特許に際しては、道路管理者の権限を尊重して、主務大臣は事前に右管理者の意見を徴しなければならないものとされている(軌道法施行令二条、三条、五条、同法施行規則四条)のと同趣旨で、地方鉄道法第四条但書の許可の際は、地方鉄道法第四条但書ニ依ル線路敷設ノ許可手続(明治四三年八月二日内務省令第二七号)第一条が、「地方鉄道法第四条但書ニ依リ線路敷設ノ許可ヲ得ントスル者ハ……敷設地ノ地方長官ヲ経由シ内務大臣ニ申請ス可シ」旨規定し、「地方鉄道法第四条但書ニ依ル線路敷設許可申請者アル場合進達方ノ件」(明治四三年八月二日内務省訓令第一三号)によつて、「地方鉄道法第四条但書ニ依リ線路敷設ノ許可ヲ申請スル者アルトキハ明治三十四年本省訓令第十七号ニ準ジ意見書ヲ調製シ命令書案ヲ添付シテ之ヲ本大臣ニ進達ス可シ」と規定された。そして右訓令引用の「軌道条例取扱方心得」(明治三四年一〇月二五日内務省訓令第一七号)第二条一項は「地方長官ハ軌道ヲ敷設スヘキ公共道路ノ維持費ヲ負担スル府県郡市町村……ノ意見ヲ聞クコトヲ要ス……」と規定していたが、昭和五〇年四月一日道政発第一九号建設省道路局通達が発せられ、地方鉄道を道路に縦断的に敷設する場合には地方鉄道法四条但書の建設大臣の許可があれば道路管理者の占用許可は不要との前提に立ち、軌道法の場合と同様に道路管理者の意見を徴することと定め、そのように行政手続は処理されているのである。

したがつて、地方鉄道の道路への縦断的敷設の許可については、軌道法四条の場合と同じく、さらに道路の占用許可を受けることを要しないと解すべきである。

第三に、道路の主務大臣が地方鉄道法四条但書に基づき地方鉄道を道路に敷設することを許可したのにもかかわらず、さらに道路管理者の占用許可を必要とすると解したときには、道路管理者が不許可の処分をする場合も考えられるが、そのような場合、等しく道路管理の立場から二つの異なつた結論が生ずることになり、道路行政の二元化をもたらすことになり決して望ましいものではない。

また、その場合には大臣のした許可の効力や鉄道業者の権利発生の時期等解釈との混乱は避けられず、さらに、大臣が国家的大局的見地から、道路管理上の支障を考慮しても地方鉄道を敷設することの公共の利益を優先させることとして地方鉄道の道路への敷設を許可したのにかかわらず、一道路管理者が微視的立場から占用を不許可とする事態が生じた場合には、地方鉄道法四条但書の立法趣旨は全く没却される結果となる。

したがつて、地方鉄道法四条但書の許可に重ねて道路法三二条の占用許可を要するとの解釈は不合理である。

第四に、立法の経過から見ても、地方鉄道法四条は軽便鉄道法四条を、地方鉄道法一六条は私設鉄道法四二条(軽便鉄道法五条で準用)とその前身の私設鉄道条例九条を、それぞれ継承した規定であるところ、沿革的にも軽便鉄道法四条は縦断的占用に関する規定であり、同法五条が準用する私設鉄道法四二条は横断的占用に関する規定であつたことは、軌道条例(軌道法の前身)と私設鉄道条例との関係についての明治二五年九月の内務大臣の請議に対する内閣の閣議決定に徴しても明らかなところである。

そして、旧道路法六三条は、同法の道路に適用しない法令として、私設鉄道法四二条(軽便鉄道法五条による準用を含む。)を掲げているが(一〇、一一号)軽便鉄道法四条、軌道条例一条は掲げていない。右の沿革に照らしても、軽便鉄道法四条は軌道条例一条と同様に道路の管理に関する旧道路法の特別規定であつたところ、これを継承した地方鉄道法四条もまた道路の管理に関する旧道路法の特別規定であると解すべきである。

そうだとすれば、地方鉄道法四条は現行道路法との関係においてもその特別規定たる性質を失わないものというべきである。

3  道路占用許可の内包

(一) 地方鉄道法四条但書の許可は、以下に述べるとおり、その地方鉄道敷設工事についての当該道路の占用許可をも含んでいると解すべきである。

(二) すなわち、地方鉄道法四条但書の許可申請書には「工事方法概略書」を添付することが要求されている(「地方鉄道法第四条但書ニ依ル線路敷設ノ許可手続」一条二号)。このことは、道路法三二条二項が「工事実施の方法」(五号)を明らかにすべきことを要求していることに鑑みれば、地方鉄道法四条但書の敷設の許可申請に対しては、その地方鉄道の道路への設置自体の可否のほかそのための工事用施設の設置等に係る当該道路の占用の可否についても判断して許否を決することが法律上要求されているものというべきである。したがつて、地方鉄道法四条但書の許可は敷設工事についての右道路の占用許可を含んでいるものと解すべきである。

(三) 道路法三二条一項七号、同法施行令七条二号、三号は、一般の工事用施設・工事用材料による道路占用について占用許可を受けるべきものとしているが、右の工事用施設あるいは工事用材料による道路占用とは、占用物件(本件でいえば地方鉄道施設)を設置するための工事用施設等による占用を指すのではなく、それ以外の、例えば沿道における建設工事等をするために道路区域内に工事用板囲いや足場を設ける場合を指すのであつて、右の趣旨の規定の存在は、鉄道敷設の許可とは別個に工事のための占用許可を必要と解する根拠とはならない。

(四) 軌道法は軌道施設についての占用許可と道路に関する工事についての道路管理者の許可とを別個に取り扱つているが、これは軌道施設についての占用許可(同法三条)は、その申請書に工事方法書等の工事に関する資料の添付が要求されていない(同法施行規則一条)ことから、道路に関する工事についての許可を含んでいないと解される結果であつて、地方鉄道法とはその仕組みを異にしているものである。

4  道路占用料免除による損害の不発生

(一) 占用料徴収条例三条は、所定の占用物件に係るもの等について、特に必要があると認める場合には、占用者の申請により占用料の額の全部又は一部を免除することができる旨規定しているところ、被告は、営団の本件都道の占有にかかる道路占用料を次のとおり免除した。

(1) 別紙占用期間目録(二)1、2の占用について

営団の昭和五八年三月三一日付道路占用料免除申請に対する同年四月一日付け金額免除決定。

(2) 同目録(二)3の占用について

(ア) 昭和五六年一一月一日から昭和五七年三月三一日まで

営団の昭和五八年三月三一日付道路占用料免除申請に対する同年四月一日付け全額免除決定。

(イ) 昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日まで

営団の昭和五七年三月三一日付道路占用料免除申請に対する同年四月一日付け全額免除決定。

(ウ) 昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日まで

営団の昭和五八年三月三一日付道路占用料免除申請に対する同年四月一日付け全額免除決定。

(エ) 昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで

営団の昭和五九年三月三〇日付道路占用料免除申請に対する同年四月二日付け全額免除決定。

(3) 同目録(二)の4の占用について

営団の昭和五九年三月三〇日付道路占用料免除申請に対する同年四月二日付け全額免除決定。

なお、右各免除申請書においては「四条許可部分」と「三二条許可部分」を区別して記載し、本件都道の占用部分は「四条許可部分」の一部として記載されているが、占用料徴収条例三条の対象としている占用は、道路法三二条の占用許可を受けた場合だけでなく、特別法によつて、右占用許可を受けたと同様の効果が生ずる場合も含むから、右各占用料免除は適法である。

(二) 仮に前記免除が効力を生じていないとしても、占用料徴収条例三条は、地方鉄道等特に必要があると認める場合は占用者の申請により占用料を全部または一部免除することを定めている。そして、実務の取扱いも本件のような事例の場合には、道路管理者は右条項に基づいて従前より必ず占用料を全額免除する措置をとつている。

(三) したがつて、本件の場合、仮に改めて道路法三二条の許可をとる必要があろうとなかろうと、その占用料については、結局、営団の納付義務は免除されることになるから、都に占用料相当の損害が発生することはない。

五  抗弁に対する認否

1  被告の主張1については認否がない。

2  同2、3の各主張は争う。

3  同4(一)(二)の事実は知らない。4のその法律上の主張は争う。

六  原告らの反論

1  軌道法三条、四条と地方鉄道法四条但書との関係

(一) 道路法は道路に鉄道、軌道等を設けるときは道路管理者の占用許可を必要とするものと定めている(同法三二条一項三号)ほか、これとは別に敷設工事のための道路の占用についての道路管理者の占用許可を要求している(同法三二条一項七号、同法施行令七条二、三号)。したがつて、軌道法四条及び六条のように道路管理者の許可を不要とする特別の規定がない地方鉄道法においては、道路法による道路管理者の権限を排除することはできないというべきである。

(二) 次に、地方鉄道法と軌道法について検討すると、軌道法の予定した鉄道機関は、道路の効用を補充するものとして高速運転を予定しない道路運行に適うような緩やかな規格のものであり、そうであるからこそ道路の占用を原則的に許し、それについての道路管理者との調整には簡易な手続を採用し、軌道法四条の「みなし規定」が存在するのである。これに対し、本来道路と無関係で高速運転を予定した地方鉄道法にあつては、道路への敷設は道路管理者との間でも厳格な手続を踏む必要があり、そうであればこそ同法には軌道法のようなみなし規定を設けないこととしたのである。

(三) また、沿革的にも、地方鉄道法制定当時、あるいは同法四条但書と同趣旨の規定をもつた軽便鉄道法の施行されていた当時には、軌道法四条のようなみなし規定はそもそも存在しなかつたのである。

すなわち、軌道法の前身である軌道条例(明治二三年八月二五日法律七一号)には軌道法四条に相当する規定は存在しない。したがつて、旧道路法が施行された大正九年四月一日から軌道法が施行された同一三年一月一日の間は地方鉄道法四条但書の許可があるからといつて、旧道路法二四条、二八条所定の道路管理者の許可を要しないとする法律上の根拠は全くなかつたものであり、軌道法が施行されたことによつて地方鉄道法四条但書の趣旨が従前と変わり、明文もないのに道路管理者の許可が不要になつたと解することは不合理である。

2  地方鉄道法四条但書の趣旨

(一) 軌道法三条所定の特許はいわゆる講学上の特許たる性質を有するが、地方鉄道法四条但書の許可の性質は、講学上も許可(禁止の解除)に当たり、特許ではない。

そして、その申請手続をみても、申請書には、鉄道を道路上へ敷設することを必要とする事由を詳記するとともに、起業目論見書、工事方法概略書、全線路の予測平面図、道路上に敷設すべき線路の予測図、沿線の地勢及び線路選定の理由を詳記し付近の道路・市街等の関係を説明する説明書及び道路上の敷設費の概算書を添付することが必要とされている。したがつて、右申請に対しては、専ら路線の設定、ことに道路上に路線を設定することの当否という観点からその許否が決せられるべきものと解される。

他方、道路占用許可は講学上の特許の性質を持つ行政行為で、その申請書において明らかにすべき事項は、道路法三二条二項所定の占用の目的、期間、場所、工作物・物件又は施設の構造、工事実施の方法、工事の時期、道路の復旧方法等である。これらの事項に照らすと、道路占用許可は専ら道路管理の観点からその許否が決せられるものと解される。

したがつて、地方鉄道法四条但書の許可と道路占用許可とは、許否を決するにあたつて判断すべき事項が異なるから、前者があつたからといつて後者が不要となる筋合のものではない。

(二) そもそも、道路の機能に少なからぬ影響を与える可能性のある地方鉄道の道路への敷設について道路管理者が法的に保障された手続によつて関与することが認められないことは不合理である。道路の機能を補完する性質を有する軌道についてさえ、軌道法四条の特許及び同法六条の施行認可による各道路占用のみなし許可の効果が生ずる場合には、主務大臣は道路管理者の意見を徴することが法律上要求され(軌道法施行令二条、三条、五条二項、同法施行規則四条、一〇条)、道路管理者の利益が手続的に保障されているのに、地方鉄道法にはこのような保障規定は存在しない。ちなみに、日本国有鉄道の行う事業のためには道路占用許可は不要であるが、そこでも道路管理者との協議が法律上要求されている(同法三五条)。

仮に、地方鉄道を軌道に準じて考えることが一般的にはできるとしても、軌道法四条と同一趣旨の解釈をし、道路法三二条の適用を排除することは、旧憲法下における旧道路法のように地方道の管理者は国の機関に過ぎなかつた法制の下でなら格別、地方自治、地方分権を基本原理とする現憲法下で制定された現行道路法(そこでは、地方道の道路管理権は、法令に特別の定めをしないかぎり、原則として各地方自治体の専権に属している。)に関しては、明文がないのに地方公共団体の道路管理権を奪いあるいは制約を課することになるから誤つた解釈である。

(三) また、道路法では、三二条一項三号で鉄道も軌道と並んで道路占用の許可を要する施設と定めながら、道路占用の特例を定めた同法三六条では地方鉄道はその対象としながら、軌道は除外している。このことは、軌道法四条、六条は道路法の道路占用許可の特別規定に当たるが、地方鉄道については道路法の規定がそのまま適用されることを意味しているというべきである。

3  鉄道敷設工事のための占用と道路法

地方鉄道法四条但書の許可は道路への鉄道敷設それ自体を対象とするものであり、工事のための道路の占用とは占用の場所、期間、工作物等の点で異なるから、鉄道敷設工事のための占用は鉄道敷設による占用とは別個の意義、機能を有し、これと別に道路管理者の許可を要するというべきである。このことは、同法一六条が道路に関する工事施設について所管行政庁の許可を受けるべきことを定めていること、同法三二条一項七号、同法施行令七条二号、三号が工事用施設又は工事用材料による道路の占用に占用許可を要するとしていること、軌道については軌道施設の占用許可と道路に関する工事についての道路管理者の許可を別個に取り扱つていることなどから明らかである。

したがつて、本件都道の占用は地方鉄道敷設のための許可とは別に、道路に関する工事のための占用許可を受けなければ適法とはいえない。

4  横断的占用と縦断的占用とを区別する解釈について

(一) 道路法及び地方鉄道法には道路の占用について「縦断」「横断」なる概念を明らかにした規定は存在しないし(却つて道路法三一条、四八条の三等は道路と鉄道の交差という表現を用いている。)、その区別は必ずしも明瞭とはいいがたい。地方鉄道法四条但書の規定を前提として立法された道路法三六条も単に「地方鉄道を……道路に設けようとする者」と規定するだけである。

また、被告は地方鉄道法四条但書による許可と道路管理者のする占用許可との齟齬の可能性をいうが、道路法三六条二項が設けられていることから道路占用許可が恣意的に運用される虞れは少ないし、被告の主張する解釈を採用しても横断的占用については同様の事態が生じうるから、横断的占用と縦断的占用を区別することに合理性があるとは言えない。

(二) 沿革的に見ても、かかる区別を設けることは誤つた解釈である。

第一に、軌道法に関して言えば、軌道条例取扱方心得(明治三四年一〇月二五日内務省訓令第一七号)の二条本文は軌道を敷設する公共道路の維持費を負担する府県郡市町村等の議会等の意見聴取を義務づけ、但書において「軌道ガ単ニ道路ヲ横断スルニ止マルトキ」には意見聴取義務を解除している。これからみれば「軌道ヲ敷設スヘキ公共道路」とは縦断か横断かを問うものではないことは疑問の余地がない。また、同心得七条等は軌道が道路外の専用軌道敷を走り、道路を横断して踏切を設置することを予定しているが、この場合に要する手続は同条例一条の特許以外には考えられない。

第二に、私設鉄道条例九条は鉄道敷設に関して「道路橋梁溝渠運河等ヲ変換シ又ハ一時之ヲ移設」する場合の手続を一般的に定めた規定であり、横断か縦断かを問うていない。同条例は、特に「横断」に限定している場合には、その旨を明らかにしている(同条例一〇条参照)。

第三に、私設鉄道法四二条も、それが私設鉄道条例九条を引き継いだものとすれば、右のような区別を前提としたものでないことは明らかである。そして、私設鉄道法も「横断」に限る場合にはその旨を明らかにしている(同法四三条)。

第四に、軽便鉄道法四条であるが、被告主張の論法を貫けば、道路の横断的占用の場合であつても、私設鉄道法を準用して逓信大臣の認可を要することになるはずであり、縦断的占用と区別されるとする所論は矛盾を生じる。

そうすると、軽便鉄道法四条は特に縦断の場合に限つて適用される規定ではないと解するのが相当である。

5  道路占用料の免除について

(一) 占用料徴収条例にいう道路占用料とは「道路法三九条の規定による都が徴収する道路の占用料」(同条例一条)であるから、この占用料は当然道路法三二条の占用許可を前提としている。ところが本件の占用料免除に関する文書には本件都道部分は「四条許可部分」と表示され、「三二条許可部分」には含まれていない。

右「四条許可部分」とは地方鉄道法四条但書の許可を、「三二条許可部分」とは道路法三二条の占用許可を表示したものと解されるので、本件都道の占用部分の占用料免除手続は道路法三二条の許可を前提としていない。したがつて、本件都道の占用について被告が占用料徴収条例に基づく免除をすることはできず、被告主張の手続がなされたとしても占用料免除の効力は発生しない。

(二) 営団の本件都道の占用は道路占用許可のない違法な占用であるから、適法な占用を前提とする占用料やその免除の手続の余地はない。原告らは都の公共財産の違法な占有により生じた使用料相当の損害金の請求権の徴収を怠たつていることを訴訟の対象としているのであるから、被告の占用料免除に関する主張は右徴収義務を免責する根拠とはならない。

第三証拠〈省略〉

理由

第一本案前の判断

一  住民訴訟の対象としての適格性

1  請求原因1(当事者の地位)及び5(監査請求手続の履践)の事実は当事者間に争いがない。そこで、本件監査請求の対象が財務会計上の行為に該当するか否かについて判断する。

2  都道占用の放置の違法確認請求について

(一) 原告らの都道占用の放置の違法確認の訴えは地方自治法二四二条の二第一項三号の怠る事実の違法確認の訴えのうち財産の管理を怠る事実を対象とするものであるが、同法二三七条が「この法律において『財産』とは、公用財産、物品及び債権並びに基金をいう。」と定め、同法二三七条以下に公用財産等の定義規定を置いているから、住民訴訟の対象となりうる事項を定めた同法二四二条一項にいう「財産」も右にいう意味での財産を指すものと解すべきであつて、財産的価値を有する全てのものを指称するものではない。

(二) ところで、本件都道の敷地は国有地であり、東京都が国から無償貸付を受けている土地であること(請求原因3(一)の事実)は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によると、右無償貸付は道路法施行法五条の規定によるものと認められるところ、原告らは、右無償貸付けによる使用権は地方自治法二三八条一項四号の権利に含まれると主張する。

しかし、同号は「地上権、地役権、鉱業権その他これに準ずる権利」と規定しており、ここに例示された権利と対比して、右にいう「その他これに準ずる権利」とは、鉱業権に準じて扱われる物権のほか、用益物権あるいは権利の法的性格がこれに近似したものをいうものと解され、一般的には単純な債権にとどまる動産賃借権や使用借権(本件の使用権は私法上の使用借権とは発生原因を異にするが、これに類するものである。)等は含まれないものといわなければならない。実質的にみても、本件のような無償貸付による使用権は、使用目的が道路敷という公共用途に限定され、都が自由に使用したり、譲渡したりすることは許されない権利であり、勿論、収益を上げることを目的とした権利でもないから、その資産的価値は著しく低く、その管理といつても、もつぱら道路行政上の要請に基づいてなされるべきものであつて、財務会計上の見地から管理の適否を論じるべき余地の殆どない権利にほかならない。したがつて、これを同法二三八条一項四号例示の物権、用益物権に準じて扱うことができないことは明らかであり、原告らの主張は失当である。

右のとおり、本件都道の使用権は地方自治法二四二条一項所定の「財産」に該当しない以上、原告らの訴えは、同法二四二条の二に掲げる「財産」の管理を怠る事実を対象とするものではなく、不適法である(この意味で、本件監査請求を不適法として却下した監査委員の処分に違法はない。)。

(三) のみならず、道路法施行法五条(道路法九〇条二項も同様である。)に基づく無償貸付(みなし貸付)に基づいて取得した道路敷使用権自体では、当然には当該道路の占有者に対して妨害排除等の請求権を取得するとは解しえないのであつて、一般的には道路法七一条による道路管理者としての権限に基づく監督処分としてこれをなすべきことになる。すなわち、道路の不法占有に対する管理上の措置はもつぱら道路法に基づく行政処分としてなされることを法は予定しているものというべきである。

そうすると、原告らの前記訴えに係る請求は、財務会計上の怠る事実を対象とするものとは当たらないと解すべきであるから、この点においても右訴えは不適法である。

3  損害金の徴収懈怠の違法確認の訴え

(一) 被告は、右訴えも道路管理上の管理の懈怠を論ずることになり、財務会計上の処理を直接の目的とするものではないから、不適法であると主張する。

しかし、原告らの右訴えは都に損害金請求権という金銭債権が生じているのにその徴収を怠つているとして、その懈怠の違法の確認を求めるものであり、右金銭債権は地方自治法二四〇条一項の債権にほかならないから、同法二三七条一項、二四二条一項の財産に該当し、その徴収の懈怠があれば、監査請求及び住民訴訟の対象とすることができるものである。右債権の発生原因が道路管理上の過怠の有無と関り合うものであつたとしても、右債権が占用料徴収債権とは別個の一般不法行為法上の損害賠償請求権(占用料相当の損害金債権)として成立しうるものであるかぎり、その徴収の懈怠は財務会計上の怠る事実にほかならない。

したがつて被告の前記主張は採用できない。

(二) 右徴収懈怠に関する監査請求が却下されたことは前記のとおりであり、右却下の理由が住民監査の対象となしえない請求であると判断されたことに因るものであることは弁論の全趣旨で明らかである。しかし、右監査委員の措置は請求の適否について判断を誤つたものといわなければならないから、右請求に係る本件訴えは監査請求前置(地方自治法二四二条の二第一項)の要件を満たしているものと言うべきである。

(三) そして、被告は都の長として債権の取立てに関し必要な措置をとるべき地位にあることは明らかである(地方自治法二四〇条二項)。

第二本案(不法占有に因る損害賠償金に係る不作為の違法確認請求)の判断

一  営団による占有の範囲

1  営団による本件都道の占有の期間及びその範囲は、原告らの主張によれば別紙物件目録の各部分につき別紙占用期間目録(一)のとおりであり、被告らの主張によれば別紙占用期間目録(二)のとおりである。

しかし、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証によると、原告ら主張の別紙図面一、二、五の各赤線で囲んだ部分及び別紙図面四の赤線で囲んだ部分のうちの車道部分にかかる営団の占有とは、営団が交通管理者の指示により昼間はネツトフエンスを、夜間(午後八時から午前六時まで)は、これに代えてバリケードやカラーコーン等を置いていたが、それによつて囲まれる部分(以下「バリケード等の存置範囲」という。)を指称するものであること、右のバリケード等の存置は、歩道又は車道上に地下鉄敷設工事の工作物等が置かれたりするため、その付近の道路交通の安全及び円滑化を図る必要から、道路交通法七七条一項一号に基づく道路使用許可を受け、その使用許可の範囲内の道路部分を対象としたものであること、その位置も右工事の進捗に対応して逐次移動し、当該バリケード等は道路に固定して設置されるものではなかつたことが認められる。

そうすると、営団による右バリケード等の存置はもつぱら道路交通の安全のためになされた可動物件の一時的存置に過ぎす、当該バリケード等によつて囲むことによつてその部分を営団が排他的に占有、使用するためのものではないから、これによつて営団が右範囲を占有していたものと認めることは到底できない。

原告らは、右バリケード等の存置は道路法三二条一項七号、同法施行令七条一号の「標識」の設置に該当するから、道路法三二条の占有許可を要すると主張する(請求原因2(二))が、営団による右バリケード等の存置は、後記二1認定の地下鉄敷設工事の施行に伴う当該都道の交通の安全のために一時的になされるものであることに鑑みれば、道路法三二条の占有許可を要するような継続的な道路の使用(道路法三二条一項参照)にはあたらないというべきである。また、同法施行令七条一号の「標識」による道路の占用は、設置された標識自体によつて道路に生じた占有部分を指すものと解されるから、右バリケードの存置自体は「標識」の設置による道路の占用にも当たらず、この点においても原告らの主張は失当である。

2  右のとおり、原告らの主張のうちバリケード等の存置範囲、すなわち別紙物件目録及び別紙図面一ないし五のうち各赤線で囲んだ部分はいずれも営団に占有があるとは認められないのでこれを除外すると、原告ら主張の別紙占用期間目録(一)のうち物件目録の番号四の青線部分については同三の占有範囲と重なる限度で被告主張の占用期間目録(二)の符号3の占有範囲と合致するから、この限度で被告が自認する営団の占有を肯定するのが相当である。

そうすると、営団の占有に関して原被告間の主張の対立として残る点は、同目録のうち物件目録の番号一の青線で囲んだ部分の占用開始時期(八日間の差異がある。)のみとなる。

二  不法占有による損害金請求権の存否

1  原告らは営団の不法占有により都に占用料相当の損害賠償請求権が発生したと主張する。

しかし、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第三、第五、第七、第九、第一七号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第二、第四、第六、第八、第一〇、第一五、第一六、第一八号証、前掲乙第一号証を総合すると次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 建設大臣は、昭和四七年三月三〇日付けで、営団に対し、営団の申請にかかる営団地下鉄一一号線渋谷二丁目、日本橋本町間の道路に敷設することについて別に工事施行認可を受けることを附款として許可した。

(二) ついで、建設大臣は昭和四八年三月二七日付けで営団の右工事施行の認可申請を左記事項を付して認可した。

工事の施行にあたつては、工事の順序方法等について詳細な設計図書を作成し、これを道路管理者に提出してその承認を受けること。

(三) そこで営団は被告に対し、右工事方法についての承認を求めたところ、被告は同年七月一三日付けでこれを承認した。その後被告は、営団に対し昭和五六年二月二五日付けで右工事の施行方法の一部変更を承認したが、その概要は抗弁1(四)のとおりであつた。

(四) 被告は国の行政解釈に従い、地方鉄道法四条但書に基づき地下鉄の縦断的占用の許可がなされた場合には、道路法に基づく占用許可はことさら必要ないとの見解の下に、営団の占有する本件都道の道路占用料の免除について地方鉄道法四条但書の許可にかかる「四条許可」の部分と道路法三二条の占用許可にかかる「三二条許可」の部分とに区分して、それぞれ免除の申請をなさしめ、これに対する決定をしていた。そして、本件都道の占用についても、営団からの申請に基づいて、次のとおりその各年分につき全額を免除する決定をした。

(1) 昭和五六年分(別紙占用期間目録(二)1ないし3関係)

昭和五八年四月一日全額免除決定

(2) 昭和五七年分(同目録3関係)

昭和五七年四月一日全額免除決定

(3) 昭和五八年分(同目録3関係)

昭和五八年四月一日全額免除決定

(4) 昭和五九年分(同目録3、4関係)

昭和五九年四月二日全額免除決定

(5) 昭和六〇年分(同目録3、4関係)

昭和六〇年五月八日全額免除決定

2  右の認定事実に照らすと、被告は、本件の工事方法の承認及びその一部変更の承認に至るまでの過程の中で、営団から提出された詳細な設計図書等の検討により、その工事の実施方法、時期等を十分認識していたことは明らかであるから、被告は、地方鉄道法四条但書の許可があつた範囲の本件都道部分について、前記地下鉄の敷設並びに敷設に必要な工事を施行するために営団がこれを占有、使用することについても十分認識したうえで、右施行方法を承認したものであり、営団も被告の右承認があつたればこそ本件都道への地下鉄敷設工事を開始できたものであることは明らかである。

そうであれば、地方鉄道法四条但書に基づく許可があつた範囲の本件都道部分を営団が地下鉄敷設並びにこれに必要な工事の施行のために占有、使用することについて、営団として別個にあらためて道路法三二条に基づく占用許可をあらためて取得することが道路法の要求するところであろうと否とに関りなく、被告の右承認によつて営団の右占有、使用という行為の不法行為性は阻却されているものというべきである。すなわち、右認定のとおり、営団は、本件都道の管理者である都を代表する被告の承認の下に、無償使用を認められて本件都道を占有、使用してきたものであるから民法上その占有は原因のないものではなく、不法占有と評価することはできない(道路法上の道路占用権を有するか否かと民法上の不法行為の成否の問題とは区別されなければならない。)。したがつて、営団の前記占有により都に不法行為に基づく損害賠償請求権が生じる余地はないというべきである。

3  なお、仮に前記一2のバリケード等の存置範囲について営団の占有が成立するとの見解をとつても、右バリケード等の存置は、前記認定の地下鉄敷設に必要な工事に当然付随するものとして、右にみた一連の工事の施行方法の承認の趣旨に包含されているものと解されるから、右2と同様の理によりその存置範囲について不法占有となるものでなく、都にその損害賠償請求権が発生するものでない。

4  よつて、被告が都の営団に対する損害金債権の徴収を怠つていることの違法確認を求める原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰する。

第三結論

以上のとおり、原告らの訴えのうち本件都道の占用の放置の違法確認を求める訴えは不適法であるからこれを却下し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本和敏 塚本伊平 大島隆明)

物件目録、占用期間目録(一)、(二)、損害金目録、占用料相当額計算書、図面一~五〈省略〉

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